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第291話 

「賄賂だと?」遠藤西也は冷たく鼻で笑い、「それで、お前たちは何をしていたんだ?」と問い詰めた。

「......」

再び、沈黙が降りる。

ドンッ!

遠藤西也はデスクを強く叩きつけ、立ち上がった。「今回の損失は、お前たち全員を売り払っても到底取り返せる額じゃない!」

その頃、松本若子と遠藤花はオフィスの少し離れた場所に立っていて、中から物が投げつけられる音と男の怒号が響くのを耳にした。

二人は足を止め、その場で立ち尽くしていた。

「お二人とも、遠藤総は今少しお忙しいようです。少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?コーヒーとお菓子をお持ちしますか?」

「結構よ」遠藤花は手を振って断った。「あなたは気にせず、仕事を続けて」

秘書は軽く微笑み、恭しく一礼してから、「かしこまりました、お嬢さん。何かございましたら、いつでもお呼びください」と答え、その場を離れていった。

秘書が去ると、遠藤花は若子の腕を取り、もう少し前に進んで様子を伺った。

若子は中から響く怒声を聞くたびに、鼓動が速まるのを感じた。

それが遠藤西也の声であることは明らかだったが、若子はこんなに暴躁な声を聞いたことがなかった。

たとえ以前、遠藤西也が修と殴り合いになった時でさえ、彼はこれほどまでに取り乱すことはなかったのだ。

どうやら彼が本気で怒ると、こんなにも恐ろしい一面を見せるのだ。

「花、あなたのお兄さん、どうしてこんなに怒ってるの?」若子は戸惑いながら尋ねた。

誰にでも怒りの一面があることは理解していたが、遠藤西也のこんな姿を見るのは初めてで、驚きを隠せなかった。

いつも礼儀正しい紳士が、今や別人のように怒りを爆発させているこの姿に、強烈なギャップを感じていた。

たとえ人は誰しも完璧ではないと理解していても、遠藤西也がこんなにも激昂しているのを耳にして、若子はやはり驚きを隠せなかった。

若子が眉をひそめているのを見て、遠藤花は彼女の耳元で小声で囁いた。「どう?私の兄に驚いた?」

若子は少し苦笑しながら、「ただ、すごく怒っているみたいで、かなり元気そうだから、健康には問題なさそうね」と答えた。

彼の体調が問題ではないと分かり、少し安堵したものの、

自分がただの夢に振り回されていたのが少し可笑しく思えてきた。

会社の問題である以上、彼ならきっと対処できるはずだと
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